●何度も読み返さないと、文意が把握できない。
●主語と述語がかみ合っていない。
●「てにをは」がおかしい。
●表現が回りくどく、しつこい。
●いろいろ書いてあるが、結局、何が言いたいのか分からない。
このような文章は、年齢の若い方ばかりでなく、相応のビジネス経験を積んでいるであろう年齢の方が書いた文章にも見られる。文章を書くことを苦手とする社会人は、総じて多いようである。
どのような業界で働く方であれ、ビジネスパーソンに求められる共通した基礎力がある。国語力である。具体的には、“読む”“聞く”“考える”“話す”“書く”という5つの力が、「ビジネスの基礎力」として必要になる。「相手の話を正確に“聞く”」「データを正しく“読む”」「論理的に“考える”」「分かりやすく“話す”」「明快な文章を“書く”」という5つの力である。文章力とは「書く力」のことであり、「ビジネスの基礎力」の中の一つにあたる。
記述された文章を見れば、その人の「書く力」のレベルが分かる。「書く力」のレベルが分かれば、他の力のレベルもある程度予測がついてしまう。「ビジネスの基礎力」である5つの力の中には、相関性の高いものがあるからである。
論理的に分かりやすく“書く”ことができる人は、論理的に分かりやすく“話す”ことも得手であり、また、論理的に“考える”ことにも秀でている。反対に、「書く力」に劣る人は、話をさせても的を射ず、筋道を立てて考えることも苦手とする傾向が強いようである。
このように、「ビジネスの基礎力」のレベルは、記述された文章でいとも簡単に見抜かれてしまう。そのため、何が言いたいのか分からないような文章を書いていては、いつまでたっても社内で重要な仕事を任せてもらえない。分かりづらいプレゼン資料しか用意できない営業担当者のいる企業は、なかなか新しい仕事を獲得することができない。「文章力が低い」というだけで、多くのチャンスを失ってしまうものである。裏を返せば、「一定の文章力」があれば、今まで失っていたチャンスを失わずに済む確率が高くなるということである。
「書く力」を身につけるには、意識的にトレーニングを繰り返す以外に方法がない。「とくに何もしていないのに、いつのまにか文章力が向上していた」ということは絶対にない。ところが、「書く力」を教育している企業は、決して多くない。論文形式の昇格試験は行うものの、論文の書き方自体を教育することはあまりないようである。そのため、文章力の向上のためには“自己研鑽”に取り組むことが必要になる。
それでは、新しいチャンスをつかむためには、どのような文章を書ければよいのだろうか。ビジネスパーソンに求められるのは、学術論文のような難解な文章を書けることと考えている方もいるようだが、そうではない。求められるのは「文章を簡潔に、分かりやすく書くスキル」である。言い換えれば「予備知識を持たない方が、“1回”読んだだけで、理解できる文章を書けること」が、ビジネスパーソンに求められる文章力といえる。これが思いのほか難しい。しかしながら、難解な文章を書けることが目標ではないので、努力しだいで誰もが身につけられるスキルである。
ビジネスパーソンにとり「書く力」は、チャンスをつかむツールである。また、スキルを身につけるために頑張った“努力の証”ともいえる。「書く力」は一朝一夕には身につかない。スタートは早いに越したことがない。
コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)