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「働くこと」基礎概念講座4-1 ~「水平的成長」と「垂直的成長」

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2014年08月11日

「成長」を考える①:「水平的成長」と「垂直的成長」

  「私の人生は、現在を超越することであり、
  一段一段と前進することでなければならない、
  と、そんなふうに考えていた。
  音楽がひとつひとつのテーマを順に、
  ひとつひとつのテンポを順に片づけ、
  演奏し終え、完成させ、前進していくように、
  けっして倦まず、けっして眠らず、
  つねに醒めて、つねに完全に沈着に、
  人生の階段をひとつずつ通りすぎ、前進していくべきである」。

             ―――ヘルマン・ヘッセ『人は成熟するにつれ若くなる』

 

◆生命の本質は「形成・成長」
「成長している」という実感は人に幸福感をもたらす。なぜなら、人の生命の本質は「形成・成長」だからだ。本質にかなうことは必然的に幸福感を呼び起こす。逆に、本質にかなわない滞留、衰退、怠惰は、不幸や不安感をおぼえさせる。

美術史家でアカデミー・フランセーズ会員のルネ・ユイグは名著『かたちと力』の中で、生命を独自の目線で切り取る。彼は、「生命体とは、エントロピー増大の法則という抗し難い傾斜を遡ろうとする挑戦」、「時間においては、人は存在するのではなく、生成する」、「生命体とは、未来へ移行しようとする不断の熱望である」と書き表している。ユイグはこの本の中で、エントロピー増大の法則に従って、何の抵抗をすることもなく進歩もなく、やがて均衡、摩滅、非緊張という状態に流れていくだけのものを惰性体と呼び、生命体と区別している。

エントロピー増大の法則はこの宇宙・自然界のすべての物質を支配下に置くが、人間という生命体はその支配力に「形成・成長」で反抗している。だから逆に、この反抗をやめたとき、人間は惰性体となり、朽ちていくしかない。

ともあれ、人はその意識の強弱にかかわらず、成長を欲求している。その欲求に働くことを通してみずからに応えていくことが、すなわち仕事の幸福となる。本節ではさまざまな観点から成長を考えていく。

* * * * *

◆「水平的(ヨコの)成長」
成長を「伸びていくこと」ととらえれば、その方向に2つが考えられる。すなわち、水平(ヨコ)方向と垂直(タテ)方向である。

まず1つめに、水平方向での成長。これは主に仕事の量や種類をこなすことによってその仕事に順応する、視野が広がる、経験の幅を持つといった成長である。

誰しも、その仕事に不慣れで未熟なころは、ともかく繰り返しその仕事に挑戦したり、場数を踏んだりして自信をつける。また大企業では、ジョブローテーションで定期的に従業員を配置換えするが、これも多様で幅のある業務経験を積ませることが目的である。

その他、自己啓発のためにいろいろな分野の読書をしたり、セミナーや異業種交流会に参加をして、自分の知識領域の面積を拡大させるのも水平的な成長となる。加えて、留学や旅行も格好の水平的成長の機会になるだろう。

概して、水平的成長は、流動的に多様な物事を見聞することで得るものといえる。

◆「垂直的(タテの)成長」
2つめに垂直方向での成長。これまでの仕事より難度の高い仕事に挑戦し、それをクリアしたとき、あるいは、仕事上の苦境・修羅場をくぐって、事態をとりまとめることができたとき、人は垂直的成長を遂げることになる。いわゆる「一皮向けた」変化、「大人になった」変化がこれにあたる。

また、こういう経験によって、これまでとは一段高い目線で考えられるようになった、より高い志・目標を描くようになった、より深くものを見つめるようになった、なども垂直的成長の証である。

概して、垂直的成長は、固定的にある箇所で奮闘し、深掘りする中で得られることが多いように見受けられる。

なお、水平的成長と垂直的成長は、完全に二分しているものではなく、人が成長するとき、たいていはこの両方の微妙な混合の成長が起こるものである。

【研修の現場から】

「広げる」・「高める」・「深める」を意識させる

水平と垂直の2方向に伸びていくことをもう少しわかりやく表現すると、自分を「広げる」・「高める」・「深める」となる。私は20代向けの研修ではこちらの3つの表現を使うことが多い。

4-1 成長の3方向

そして、自分を「広げる」・「高める」・「深める」ためにどんな行動を起こすかを演習として考えさせる。その演習の際に、ヒントとして与えているのが次のようなことだ。

1)自分を「広げる」ための行動ヒント
 ・いろいろな読書をする
 ・セミナー、勉強会に出かける
 ・留学や旅行で見聞を広げる
 ・仕事以外の活動も積極的に(趣味、ボランティア、地域活動など)
 ・異動はチャンスだと思え
 ・ネットコミュニティでさまざまな人とつながる
 ・MBA的な知識や幅広教養を蓄える

2)自分を「高める」ための行動ヒント
 ・どんな仕事にも、ひと工夫(改良・改善)を加える意識を持つ
 ・「自分が責任者・経営者だったら」という目線で物事を見る
 ・イベントやプロジェクトでは主催者側に回る
 ・“高み”を目指して生きるロールモデルを持つ
 ・やっかいな仕事が振られたら、チャンスだと思え

3)自分を「深める」ための行動ヒント
 ・専門知識を深く勉強する
 ・人にいろいろと教えてあげる
 ・一つの分野ことをしつこく続ける
 ・一度限界を超えるまで徹底的にやってみる
 ・自分の仕事に意味を与える

〈合わせて読みたいグループ記事〉
○4-1:「成長」を考える①:「水平的成長」と「垂直的成長」
○4-2:「成長」を考える②:「連続的な成長」と「非連続的な成長」
○4-3:「成長」を考える③:「成長」をみずからの言葉で定義せよ
○4-4:「成長」を考える④:「成長」は目的ではない

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